3月14日(金)より開催の3人展「PLAY GROUND」に出展する岡村一輝。日々のドローイングをもとに、記憶や日常の断片を織り交ぜながら、浮遊感のある色彩と独自の質感で風景を描き出します。今回は、制作の背景や旅と絵の関係、そして作家が描く風景に込めた思いを伺いました。
岡村一輝 Kazuki Okamura
2007年 東京芸術大学美術学部絵画科油画専攻卒業
2009年 東京芸術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻修了
2022年 Independent Tokyo 2022 タグボート特別賞、小山登美夫審査員特別賞受賞
現在東京を拠点に活動中。
作品コンセプト
生物の幼生や幼体、植物の新芽や花などを描いている。成体になる前の柔らく曖昧なその段階は「これから」どのような形になるのかを想像させる存在でもある。また、絵を描く過程で発生する油絵具の滲みや掠れが、何かに見えそうと想像することも画面の「これから」を意識する行為である。何になるかわからない存在、あやふやな輪郭、絵具の変化、それらが絵画の中で浮遊し漂いながら、少しずつ形が浮かび上がってくる。そしてそれらが組み合わさり、ここではないどこか遠くの向こう側の景色になったとき、「これから」を想像させる絵画になるのではないかと思っている。
__ 岡村さんが作品を描く際、どのようにしてインスピレーションを得て、イメージを具体化していくのか教えてください。
インスピレーションは本当にいつ来るかわからないので、日々の生活の中でとしか言いようがない感じです。最近だと、近しい人達に子供が生まれ乳幼児と接する機会があったのですが、その姿を見た時に改めて不思議すぎると感じました。そして自分はもしかしてこういう存在を描きたかったのでは…と思い立ち、幼生や幼体と呼ばれる成体になる前の生物の段階をモチーフにした絵を描いています。
あとは旅行や近所の散歩でもインスピレーションは起きるので、もはやなんでも起きるとすら言えます(笑)
そのインスピレーションを具現化するためには、日々持ち歩いている小さなドローイングブックに線だけのドローイングを描き溜め、大まかなイメージを作っていきます。
岡村さんのドローイングブック
__ ドローイングから絵画へと発展させる過程で、どのような工程を大切にしていますか?
ドローイングをそのままキャンバスに拡大し再現するような下絵的扱いにしないことを気をつけています。ドローイングにはドローイングの鮮度があるので、それらを再現しようとすると、私の場合、違和感が発生してしまいます。
書き溜めたドローイングを頭の中で解体し、再び組み合わせて大まかなイメージを作ります。そのイメージは漠然としているくらいがよくて、明確なエスキースはしないで油絵に起こしていきます。
あともう一つ、絵画へ起こす上で重要な要素としては、油絵具の滲みや掠れなどの現象があります。油絵具の現象をよく観察し、何かに見えそうというようなインスピレーションを挟み込んでいきます。この油絵具の現象とドローイングの組み合わせにより、一つの絵画が立ち上がっていきます。
__ 岡村さんの作品において、色彩は非常に印象的な要素ですが、どのようにして配色を決めていますか?
色彩は非常にこだわりがあるとも言えるし、特にないとも言えます…。
自分にとって色彩は描いていくうちに自然と決まっていく感覚があるので、こうしようというこだわりというより、オセロのように隣がこの色ならこれでしょという様にパチパチ決めていく感じで描いています。ただその分、オセロの角を取られた時のように一気に色が変わる瞬間もあります。ここ数年明るい色を使うことが多かったのですが、ある瞬間から暗い色も増えてきました。それはコントロールできるものではないので新鮮な気持ちで向き合っています。今回の展示に出す作品も暗い色を含めた色彩に挑戦しています。
配色も特に初めの段階では決めていないです。ただメインになる色は季節や気分によって決めます。イチョウの紅葉を見たから黄色系の色を使うとか、雪が降ったから白系とか、そんなテンションで決めています。
ただ紫とピンクは自分の中で使い勝手がいいので多用してしまう傾向があります。
あと黄色は自分の中で重さのない色というイメージがあります。浮遊感がある絵を描きたいことが多いのですが、黄色を入れた瞬間に絵がフワッとする感覚があり、そこが好きです。
まぁでも、こうやって振り返るとやっぱりこだわりがありますね…。
__ 現実の風景と幻想的な要素を融合させるとき、どのようにバランスを取っていますか?それは直感的なものですか、それとも計画的ですか?
最初から現実の風景を再現するような過程がないので、あまり融合している感覚はないです。例えば南国の旅行中に描いたドローイングでも、それは他人が見たら多分南国には見えないタイプの絵なので…。ドローイングを描いた瞬間から現実の世界とは乖離したものになっていると思います。
ある作家さんが「絵画とは、作者というノイズを通して現実世界が現れたもの」というようなことを仰っていましたが、それで言うと私は初手からノイズを効かせまくるタイプだと思っています。
__ 制作スタイルやテーマにおいて、長年変わらず大切にしていることは何ですか?
大切というか気をつけていることは、制作過程の段階で言語化しない事ですかね。
私の場合は過程を言語で整理してしまうと、その言語に絡め取られて失われてしまうものが多く出て来てしまうと感じています。絵画は言語にならないものを描きうる可能性を秘めているので、それに言語なしで対峙してみたいと考えています。あとは単純に自分の乏しい言語能力でノートに書き起こしたりすると、その陳腐さにテンションが下がってしまうので極力言語を遠ざけて制作しています。
ただ描き終わった後には言語化の必要性を迫られることも多々あるので、言葉を付け足していきます。
__十代の頃から現在まで夢日記をつけ続けていらっしゃるそうですが、この習慣は作品や制作にどのように影響を与えていますか?
夢の話はこの展示の打ち合わせ中に脱線して出てきただけで、作品制作の大きな要素ではないのですが…(笑)。
ただ私は昔からかなり鮮明な夢を見ます。そしてそれを制作の素材にすることがたまにあります。私の夢は色彩や五感も明確にあります。現実的な夢もあれば、奇妙奇天烈な世界の中にいる時もあります。それがあまりに不思議すぎて昔から記録をしています。
でも夢の中で見た景色などをそのまま描くことは少ないです。あくまで参考程度で素材の一つという感じです。
夢の中身より、夢が持つ質量の無さみたいなものが気になります。夢のように重さもなくどこか別の場所で存在しているかもしれないものを描いてみたいと考えています。
__ 作品を制作する際、こだわっている作業環境や道具はありますか?
作業環境については、いろいろ経験した結果、居住スペースと制作スペースが一緒の場所が自分には合っているのではと思うようになりました。
制作に行き詰まった時や休憩中に、家事をすることが好きです。
料理しながら自分の絵を遠目で見たり、夜中に起きて暗がりの中で見たり、寝起きのまどろみの中で見たり、いろいろな状況で絵画を見ると新鮮な発見があります。
_ 3人展「PLAY GROUND」では、どのようなコンセプトで展示プランを構成されましたか?
インスピレーションのところでも触れましたが、生物の幼生や幼体をイメージしたものを中心に描いています。成体になる前の柔らく曖昧な幼生や幼体という段階は「これから」どのような形になるのかを想像させる存在でもあります。また、絵を描く過程で発生する油絵具の滲みや掠れが、何かに見えそうと想像することも画面の「これから」を意識する行為です。何になるかわからない存在、あやふやな輪郭、絵具の変化、それらが絵画の中で浮遊し漂いながら、少しずつ形が浮かび上がるのを観察しながら描いています。そしてそれらが組み合わさり、ここではないどこか遠い向こう側の景色のようなものが出てきたところで作品を完成としています。今回展示する作品が並ぶことで、その風景により広がりが出ればいいなと思っています。
『pray』2025年 72.7×60.6×2cm(F20号) キャンバスに油彩
_ 今後の制作において挑戦したいことや意識していきたいことを教えてください。
最近ようやく自分の描いているものが何なのか自覚出来てきたような気がします…遅すぎますが(笑)…つまりパズルのピースが埋まってきて、全体像が少しずつ見えてきたような感覚があります。ですので残りのピースを埋めたいとは思っています。しかし、そのピースを埋め終わったと思って俯瞰したら、このパズルは実は三次元で、違う側面に続きがあったりして…なんてことを想像しています。
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岡村一輝 Kazuki Okamura |
3月14日(金)から開催する3人展「PLAY GROUND」に出展します!
「PLAY GROUND」
2025年3月14日(金) ~ 4月5日(土)
営業時間:11:00-19:00 休廊:日月祝
※初日3月14日(金)は17:00オープンとなります。
※オープニングレセプション:3月14日(金)18:00-20:00
※3月20日(木)は祝日のため休廊となります。
入場無料・予約不要
会場:tagboat 〒103-0006 東京都中央区日本橋富沢町7-1 ザ・パークレックス人形町 1F
tagboatのギャラリーにて、現代アーティスト岡村一輝、ももえ、リッチマン・フィニアンによる3人展「PLAY GROUND」を開催いたします。「PLAY GROUND」では、3名のアーティストがそれぞれの視点と手法を通じて「自分らしさ」や「自己探求」をテーマにした作品を発表します。